嘘だまり

幻が消えるとき(7)

2017年09月18日
幻の家族
「罪を犯してまで我が子を取り戻したというのに、あの日の出来ごとは、幼い体に随分と負担になったようね」
 小雪はやるせなげにため息をつく。
「結局は養母ははがあの子を無理やり連れていってしまった。すぐにも、あの子の後を追いかけたかったけれど、母が聞かせてくれた曳山祭りだけはどうしても見たかった。その願いを叶えた今、祭を見られなかったあの子に会って、曳山の話しを聞かせてあげたい」
 翔一の感情を支配する脳は眠りに落ちかけていた。小雪の話を取り込むだけだ。
「養母の、『この子は、この世にいてはいけない』の理由は、『自分は、父、母、叔父という、まぼろしの家族から抜け出せたと思ったら、いつの間にか春清とのまぼろしの家族の内にいた。そのようなまぼろしの家族を、小雪と翔一という異母姉弟を親とする子供へ引き継ごうとする。まぼろしの家族で誰かが苦しむのはもうたくさん、子供は大切かもしれないけど、まぼろしの家族を引き継いではならない』というものなの」
 小雪は、すでに体の自由が効かない翔一の手を握り、
「養母との話を思い出せるわね。『街灯の下を男が通るまで待った。明かりに見えた男は思った通り……』の後で、養母が続けようとしたのは、『春清だった』なの。昨日、父から電話があったときに、記憶が有るのを確かめた」
「……」
「父は明かされるまで気づかなかった。そのように、すべからく無頓着な父だから、偶然、養母の相手に選ばれたのね。父を愛していた養母は、『父の相手が誰だったのか』を、分かって欲しいと願ったのに、いつまでも気づかない父への意固地から、見て確かめたことを明らかにしなかったために、異母姉弟である私とあなたが、とんでもないことをしてくれた、と悔やんでいた……」
 小雪は大切に持っていた血赤珊瑚の宝石を翔一の手に握らせてうなずいた。
「……これであなたにすべてを伝えた」
「さようなら」と言いながら遠ざかる小雪を呼び止めようと、薄れゆく意識の内で翔一はもがいた。
 その翔一を幻影がさえぎる。
「待って」と叫びながら、小雪の後を追う翔一を、独特の厳粛な車軸の音を響かせた曳山が行く手を遮り、叫びを三味、笛、太鼓の軽やかな音色が掻き消す。回りを取り囲んだ曳山庵屋台の、華麗な姿が迫った。
 圧倒された翔一は、意識が反転したと思うと、「ストン」と暗闇に落ちた。
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