嘘だまり

幻が消えるとき(2)

2017年08月13日
幻の家族
「あなたから離れたいと思ったことが何度もある」
 翔一は、ひんやりとする風に首筋を撫でられた気がして身震いした。
「だから会いたくなかった?……」
 小雪は「そうだ」とも、「違う」とも言わない。思いもしない胸の内を明かされて、翔一は悄然となった。
「そのあなたに、私と母が会ったことを養母に告げ口されてからというもの、養母の干渉は異常なくらいに激しくなった。その時から私と母は地獄に突き落とされたようなもの。告げ口したあなたをすごく怨んだ」
「そんな……」 
 小雪の口から次々と出てくるのは、翔一の思ってもみない話ばかりで、「いろんなことを聞きたい」と思った勢いを削いでゆく。翔一の印象に強く残った、絢爛豪華で優雅な「曳山祭り」も霞んでしまいそうだ。
「養母の行き過ぎた干渉から何度も逃れたいと思った。それと感づいた養母は、今にも逃げ出すのではないかと疑り、生活に必要なお金さえもすぐに渡さなくなった。いつの間にか養母から、小さい頃のかわいがりようが失せていた」
 小雪は憑かれたように、
「養母は、それだけでは足りないと思ったのか、母にまで危難を及ぼそうとした」
 感情が高ぶっているのか語尾が震えている。
「私だけなら何とか耐えられる。でも、母にまで危難が及ぶかもしれないと思うと何もできなかった。私にできることといえば、いつでもあの家から出られるように、身の回りの物を少なくして、家を出た後の心づもりをすることだけ」
「今までそんないきさつがあったとは……」 
 翔一は、小雪が華やかさと無縁でいる訳を分かったつもりでいたが、今こそ真意を知る。
「家を出ると心に決めたのは、母が亡くなったと、父から聞かされた時。家を出る前の日、父と養母は、私を母の葬儀に『出させる』『出させない』で揉めていたけど、母には最後だけでも、穏やかな気持ちで旅立って欲しかった。無理をしてまで葬儀に出かけて、母の旅立ちを目茶苦茶にされたくはなかった」
 立ち上がった小雪は少し離れた所で背を向けて佇み、翔一に表情を窺わせない。
「家を出てしまえば、誰にも煩わされないで母のそばにいることができる、と気持ちを据えて荷物を整え、空になった部屋を眺めて、頼りがいのない父よりも、翔一さんのように父親が誰だかわからないほうが、よほど気楽かもしれない思った」
 小雪の震えていた声音もいつしか収まり、落ち着いた雰囲気が戻っていた。
関連記事
素姓乱雑
この記事を書いた人: 素姓乱雑
Address:富山県南砺市城端