嘘だまり

ふるさと城端にて(6)

2017年07月30日
幻の家族
小雪と庵唄 (6)の物語を始める前に、城端曳山庵屋台の一部を紹介いたします。
6回目の今回は西下町の曳山庵屋台
西下町御神像

曳山に鎮座する御神像は堯王。享保元年(1716年)木屋仙人の作
明和3年(1766年)荒木和助、木屋儀右衛門、木屋九平の
三人により修復、城端曳山人形の中で最古のもの
神座に向かって左側の脇座に「唱天徳」の三文字旗

曳山に施された彫刻の一部

宵祭前の曳山、曳山の呼称は諫鼓山、高さ6.18m、総重量7トン
享保年間(1716~1736年)の作を改修、補修

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曳山の車輪は外周に鉄輪が填まり、月の輪は二重
板部は花弁文様に彫り込み、轂から
外部に向かって蕊の形を放射状に透かし彫り

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庵屋台は切妻流れ、蝙蝠形、料亭造り、諫鼓鶏に因んだ意匠が見られる
資料引用 城端曳山祭りパンフレット
資料引用 城端曳山史
関連記事 ユネスコ登録「城端曳山祭り」
2017年5月4日撮影
小雪と庵唄 (6)


 翔一が小雪の住まいに戻った時は薄暮だった。家の玄関の前に小さな車が止まっていて、玄関の戸を開けると小雪はすぐに姿を見せる。
「翔一さん、家の前に止まっている車に乗って。今晩泊まる所に行くから」
 翔一は言われるまま車に乗り込んでシートベルトを着けると、戸締りを終えた小雪がすぐに運転席へ乗り込んできた。以前の、「華やか」とは無縁でいた小雪からは想像もできない、積極的な姿だ。
 驚いた翔一が、
「姉さんいつの間に……」
 小雪はシートベルトを着けながら、
「ここではいろんなことで車が必要だから、免許も取ったし、車も時々借りると決めているのよ」
 車をすぐに走らせた。外はすでに闇が降りて、郊外へ出ると車のライトが届く所以外、見えるものは街灯の光と対抗車のライトに限られてくる。カーラジオが軽やかな音楽を奏でていた。
「どう ? 曳山、すごかったでしょう」
「あゝ、煌びやかで豪勢なものだ。軋り音というのかな、ギギュッという音があらゆる邪念を払うようで、感じいったよ」
庵唄の《惜春》はどうだった?」
「そうだな……」
 翔一は脳裏に浮かんだ、花の一片と化して散りゆく小雪の姿を思い出して口をつぐんだが、小雪は気にした様子も見せず、
「《哀れ懐かし花のひとひら》 花は散っても翌年はまた咲くのね、いいなぁ。私も花のひとひらでいたい」  
 すぐに、曲がりくねった上り坂へと変わり、激しいエンジンのうなり音に押されて、会話は中途半端なままで途絶えた。ずいぶん登ったと思われた所の、道幅が広くなった安全な路肩に車を止めた小雪は、
「翔一さん見て」
 前方を指差した。
「うわぁ、すごい! きれいだな!」
 車の外に出てみると、そこには空にも星、地上にも星が散りばめられている。
「この地方は散居村といって家々が散らばったように離れているから、夜は地上に星を散りばめたみたい。今はもう稲が育って緑が濃くなっているけれど田に水を張ったばかりの頃は、一面に鏡を敷いたように太陽の光を眩しく反射させたり、夕焼けの空を写して景色がセピア色に染まったりして、とても幻想的なのよ」
「その景色、見てみたいな」
 暗くて小雪の表情は窺えないが、わずか一年住んで、この土地に愛着を持った小雪の気持ちが伝わる。それはそのまま、翔一のこの地に対する魅力となり始めた。
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