嘘だまり

ふるさと城端にて(5)

2017年07月23日
幻の家族
小雪と庵唄 (5)の物語を始める前に、城端曳山の一部を紹介いたします。5回目の今回は西上町の曳山庵屋台の写真は撮り損ねたので載せていない。

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曳山に鎮座する御神像は七福神の一つ恵比須
寛政7年(1795)荒木和助の作
釣竿に風折烏帽子、魚籠に鯛、恵比須の紋の「蔓柏」など、意匠を凝らしている

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宵祭前の曳山、 曳山の呼称は竹田山。高さ5.54m、総重量6.5トン
安永年間(1772~1781)7代小原治五右衛門の作

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彫刻、金具などの装飾は、恵比須に因んで水波文様を主としていて
簡素な形式で安永曳山の原型を守っている

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曳山の車輪は外周に鉄輪が填まり、月の輪の一重目は葡萄唐草文様に蔓柏紋
二重目は柏唐草文様の透かし彫高肉金具
板部の全面に水波文様の金具、および、鯛をかたどった厚金具を配する
轂の飾り蓋は蔦柏紋の金具が被さる
庵屋台は切妻流れ、切妻蝙蝠形で数寄屋造り

資料引用 城端曳山祭りパンフレット
資料引用 城端曳山史
関連記事 ユネスコ登録「城端曳山祭り」
2017年5月4日撮影
小雪と庵唄 (5)


 三味・横笛・太鼓の音が人々の心を浮かせ、朗々とした声音がしばし周囲を江戸の世界に遊ばせた。まるで料亭のお座敷にいるかのようだ。
 人々の心に余韻を残し、唄い終わった庵唄へ拍手が送られたのを機に拍子木が鳴った。
 思い出したように、祭りの喧噪と「ギューッ、ギギユュゥ」という、車軸を擦り合わせる音が戻った。
 三味線、横笛、太鼓の軽やかな音色が「まわりあい」(各町独自の間奏曲)を奏でる。
 小雪は紙片を指して、
庵唄の稽古が始まると町の中は、長い冬から解放された喜びをあらわすように三味線や太鼓の音色で満たされるの。みんなの心を浮き立たせるのよ。その時にいい唄だなって思ったから、祭りの雰囲気の中でぜひとも聞きたかった。翔一さんと一緒に聞けてとてもうれしい」
 珍しく饒舌で思いつめた表情は以前の小雪には見られないものだけに、翔一を戸惑わせた。
「ところで、翔一さん今晩どうするの」
 「弟」を気遣う表情に戻した小雪が尋ねる。言われて気づけば日は西に傾き、山の端に掛かるのは間近い。
 翔一はいろいろと、小雪にたずねたいことがある。
「泊る所はまだ決めてないけど、姉さんの所でいいよ。一晩、宿をお願いする」
「私の所は駄目よ、隣に話し声や気配が漏れるから」
 小雪の住んでいる所は隣の家と接する壁が薄いので、時には互いの家の話し声が筒抜けになることがあるというのだ。町屋造りの弱点の一つだという。
「どこかに…… 泊まるところがないかな?」
「そうだ ! 小一時間ほど祭りを眺めてきて、その間に心当たりを聞いてみる」
 小雪は翔一の返事も待たないうちにもう踵を返した。翔一はその素早さに半ば呆れながら後ろ姿を見送り、やがて小雪の姿が雑踏に消えると曳山の後を追った。
 躍動の祭りが多い中で、情熱を内に秘め、伝統文化の重みを感じさせる曳山祭りに惹かれるものがある。曳山というと京文化を思い起こす祭りに江戸の端唄を結びつけて、見事に開花させた先人の活力のすごさを、今も祭りは伝えていた。
 翔一は、曳山の後を追い城端の見どころを巡るうちに、この地「城端」は平家の落人が移り住んだ五箇山への道筋にあると知る。
 翔一は達成感の得られない結果だけを求める会社生活に馴染めないでいた。癒しを求めるうちにさ迷い、現代の落人となる前に、いまの暮らしを離れて先人の活力を今に伝えるこの地に移るのも悪くはない、と思い始めた。
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