嘘だまり

ふるさと城端にて(4)

2017年07月16日
幻の家族
小雪と庵唄 (4)の物語を始める前に、城端曳山庵屋台の一部を紹介いたします。
4回目の今回は大工町の曳山庵屋台
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曳山に鎮座する御神像は中国・三国時代の蜀の武将関羽と周倉
寛政8年(1796)荒木和助の作

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曳山の呼称は千枚分銅山、高さ6.34m、総重量7.5トン
享保年間に作られた山車は明治31年(1898)の城端大火で類焼
明治39年(1906年)浅野喜平・辰次郎の作

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曳山の車輪は外周に鉄輪が填まる。月の輪は二重で本堅地黒蠟色塗
一重、二重ともに宝草華文様高肉透かし彫金具打ち

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庵屋台は切妻起こる屋根、蝙蝠形、公郷館造り
資料引用 城端曳山祭りパンフレット
資料引用 城端曳山史
関連記事 ユネスコ登録「城端曳山祭り」
2017年5月4日撮影
小雪と庵唄 (4)


「カチ、カチ、カチ」「ソォレッ!!」
  拍子木が打ち鳴らされ、曳き手のかけ声が響き、「ギューッ、ギギユュゥ」と、一切の欲望や執着など引き剥がすような険しい音を発し、豪奢な曳山が動き始めた。巨大な曳山が交差点に向かえば、車輪の「ギィ、ギィー、ガガガッ」とこする音、軋む音を響かせ、曳山の屋根を揺らせながら向きを変える。
 向きを変えた先を見ると、庵屋台や神像を乗せた曳山が六台並んでいて、翔一はその威容に圧倒されて声もなく見とれた。 それらはまさしく動く芸術品である。だがそればかりではなかった。
 再び、拍子木が鳴ったと思うと、独特の厳粛な車軸の音が消え、あたりを張りつめた気配が支配する。
 典雅な三味線・横笛・太鼓の音だけが残るが、それも止んだ。
 見まわせばこれから始まる何かを、家の中の威儀を正した人たちや家の前にいる大勢が待っている。
「今から端唄はうたともいう庵唄が始まるの」
 翔一の耳元で小雪が囁くように言い、持っていた紙片を広げて手渡した。そこには「惜春」と書かれた唄が綴られていて、

 行く春の 思ひみだるゝ花吹雪
  しづかに洗ふ黒髪の 
 若さをすけばくしのはに
 あはれなつかし花のひとひら
(注釈 城端曳山史より抜粋 
昭和十二年西上町。城端の文人、野村満花城氏の作品)
 
 翔一はこの唄を目にして、先ほど通って来たさくら坂の桜が頭の中に浮かんだ。
「ソォレッ!」
 庵屋台の中から静黙を破る掛け声が響き、それを合図に庵歌が始まった。
 情緒のある声音に、庵歌「惜春」に思いを寄せた小雪がさくら坂の桜の花の一片と化し、散りゆく姿が思い浮ばれて、翔一の心を不安にさせた。
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