嘘だまり

ふるさと城端にて(2)

2017年07月02日
幻の家族
小雪と庵唄 (2)の物語を始める前に、城端曳山庵屋台の一部を紹介いたします。
2回目の今回は東下町の曳山庵屋台
東下町御神像

曳山に鎮座する御神像は大黒天、安永3年(1774年)荒木和助の作
神座の両脇には操り人形、左側が「ラッパを吹く人形」右側が「逆立ちかるわざ人形」
両人形は明和2年(1765年)荒木和助の作

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曳山の呼称は東耀(とうよう)山、高さ5.91m、総重量6.7トン
曳山に施された華麗な彫刻の一部

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曳山の車輪は外周に鉄輪が填まる。月の輪は二重で本堅地黒蠟色塗
一重目に菊文様高肉透かしの厚金具
16本の輻()の表面に唐草文様の透かし金具

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庵屋台は切妻流しで数寄屋造り
資料引用 城端曳山祭りパンフレット
資料引用 城端曳山史
関連記事 ユネスコ登録「城端曳山祭り」
2017年5月4日撮影
小雪と庵唄 (2)


 祭りの喧噪の中を、翔一は地図を頼りに姉・小雪の住まいを目指した。小雪の住まいは町中であっても、町の中心からは少し離れていて、高台にある町の中心部から吹き下ろす風に乗った、祭りのざわめきが時おり届くだけの閑静な場所だった。「越中の小京都」と観光案内書に示す通りに、間口の狭い家の前で玄関の戸を開けて内を窺っても、薄暗くて奥まで見通せなかった。
「こんにちわ」
「はーい」
 おとないを告げると微かに女性の声が返った。
 人の動く気配とともに、法事でもあったのか線香の香りが流れてくる。翔一には返事をした人が姿を現すまでの僅かな時間が、途方もなく長く感じられた。ようやく、薄暗い中に白いかっぽう着が浮かんだと思うと懐かしい声がする
「やっぱり翔ちゃん、声でそうだと思った」
 小雪はそう言いながら、翔一の近くに来て息を飲んだ。
 ふっと風が吹いて、姉の衣服から線香の香りが届く。
「もう、翔ちゃんと気軽く呼べないわね。しばらく見ないうちにすごく逞しくなつた」
 小雪は翔一の面相を見てどこか淋しそうに言うが、表情は思ったほど暗くなかった。翔一は、顔を合わせたときの愁嘆場を予想していただけに、以前と変わらぬ小雪の姿を見て胸のつかえが降りた。
「翔一さん、昼食は?」
「途中で済ませた。それよりも姉さん、旦那さんは?」
「そんな人いないわよ、今も一人よ」
「でも、子供がいたんじゃないの?」
 その話になって初めて、小雪は暗い表情を見せたが、すぐに殊更明るい顔を拵え、
「お願い、その話しは後にして、来たばかりで疲れているでしょうけどお祭りを一緒に見たいの」
 小雪にしては珍しく甘え声で言う。いつの間にか、甘える立場が姉弟で逆転していた。
 すでに小雪のたたずまいから、「二人で晴れやかな祭りの中へ溶け込んでみたい」という願望が覗いて見える。
「少し待ってね」 
 すぐに、出かける準備を整えた小雪と連れだって家を出た。道々、
「私ね、この地方の訛りを覚えたのよ。言葉の後ろに『~ちゃ』が付くの。『どうもないちゃ』とか『だんないちゃ』とか。翔一さんも言ってみて」
 小雪は、はしゃぐように言った。そういえば、小雪の母がそのような言葉で話していた記憶がある。翔一は気恥ずかしいのを抑えて小声でまねてみた。
「上手よ」
 小雪は褒めた後、
「『どうもないちゃ』はどうということもない、『だんないちゃ』は大事ない、と、私は勝手に解釈しているけれど、奥ゆかしくて優しい言葉使いでしょう。『~ちゃ』の語尾が抜けるように消えていくのよ」
 小雪は、瞬時俯くが、きっぱりと顔を上げ、
「私も今となっては、どうもないちゃだんないちゃ
 自分に言い聞かせるように言った。
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