嘘だまり

愛と憎悪の狭間を漂う人達(9)

2017年06月11日
幻の家族
悔悟(3)


 「いまこうして打ち明けてみると、あの人の行動の殆んどは小雪を独り占めにしたくて起こしたものと推し量ることができた。心の中に闇を抱えているのに、打ち明ける人がいなくてずいぶんと辛い思いをしたに違いない。もう遅いが、母さんの言葉尻だけを捉えず、もっと気持ちを酌み取ってゆけば良かった」
 父は今になって気がついたようだ。自分本位である父の行動が美雪小母さんと母の葛藤に波及、幻の家族皆が「愛と憎悪の狭間」を漂った。 
「それにしても、美雪を含め、家族みんなに辛い思いをさせた」
 悔悟を口にする父からは、今まで感じた他人のような気配が拭ったように消え、よそよそしく”あの人”と呼んだ母への思いやりが言葉に滲んでいた。
 だが父は翔一にまだ隠していることがある、それは小雪の行き先。小雪の母親の故郷名を知られないように伏せるということは、今その地に小雪が暮らしているに他ならない。
 翔一は頭の中に浮かぶ地名を、父に突き付けた。
「姉は、今の話に出てきた母親の故郷、じょうはなで暮らしているのですね」
 うろたえた父は暫く空を睨んだ。
「どうしてそれを、君と母さんが話した時にも出てこなかった地名なのに」
 図らずも父は事故直前に、母と翔一の話を立ち聞きしたと言っているようなもの。
 なぜ立ち聞きしていたのかと、翔一は疑問に思ったが、父は話を立ち聞きしていたのではなく、そのとき家の中にいた乳児を気遣っていて、たまたま耳にしたものと気づいた。父が気にする乳児と言えば小雪の子供でしかあり得ない。
 そのことを裏づけるように、母が事故に遭う直前、翔一は小雪の後ろ姿を見ている。だが、生活に打ちひしがれた様子の小雪ではなかった。すべては、姉に聞けば分かると、翔一は思った。
 父は肩を落とし、
「小雪から口止めされていた。いずれは分かってしまうと思ったが、その地名をすでに知っているとは……」
 呻くように言い、
城端じょうはなにはいつ向かう」
「明日の朝」
「急だがしかたがない、住まいまでの地図を書こう」
 父はそう言い、小さくため息をついた。
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素姓乱雑
記事作成者: 素姓乱雑
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