嘘だまり

愛と憎悪の狭間を漂う人達(7)

2017年05月07日
幻の家族
悔悟(1)


 妻の言う通りだ、振り返れば恋愛でも見合いでもなく、金で心を決めた結婚。夫婦として心を通わせられない不満は残るが、今となってはやり直すことができない。春清はこの先、妻となった”あの人”と仮面の夫婦で送ると決めた。 だがこのことは老人の言った、「平穏な日々は望めなくなる」の、まだ始り。
 春清に強い言葉を突きつけたあの人も、引き取った小雪を得て喜ぶ姿に陰りは見られなかった。春清はこのまま平穏に暮らせると思ったが、一年程してあの人が妊娠していると気づく。春清はあの人に一指も触れていないから、無論、春清の子でない。子供の父親は誰かと尋ねたが、あの人は春清に名を明かさないばかりか、その後、相手と会った様子も見られない。
 子供が生まれると、あの人は春清に向けて、
「無論、父親となる届を出してくれるわね」
 口をつぐむ春清に、「金で動く者への仕返しだ」と言い足した。
 このようにして幻の家族が出来上がった。

「今はあの人も鬼籍に入ったから、君の父親は謎となった」
 父は茶碗に注いだ酒を口に含み、
「故人となったあの人の悪口をいうわけではないが」 と前置きして、その後は愚痴の入り混じった話しとなる。
 
 あの人も自分の子を得て、一時は子供の病気で悩んだり、歩くようになったと喜んだり、優しい母の顔になった。春清は、誰の子であろうと、幻のような家族が消えないで残ればそれでいいと、思った。
 ところがあの人は、翔一が大きくなるに連れて、忘れたように構わなくなる。翔一はちょうどかまって欲しい年頃で、あの人に甘えたりするが、時には顔をそむけることさえあった。それまでも小雪が翔一の世話をしたが、一挙にその時間が増えてしまった。翔一は母を慕うように、小雪の後をついて歩く。するとあの人は、「翔一を構うな 放っておけ!!」などと、春清と小雪に怒りを爆発させた。春清はどうしていいか分からず、翔一を他人の子として傍観するしかなかった

「そのような状況なのに、美雪が、小雪に会いたくて来てしまった」
「美雪小母さんにすれば姉さんは自分の子供。いつでも会いたいのは当然だと思う」
「私は、具合の良くない美雪が小雪に会いに来るのは、まだ先のことだと思っていた」
「小母さんは具合が良くないからこそ、必死だったのでは?」
「そのようだ、私もそこまで思いが至らなかった」

 春清は美雪に、「元気でいれば子供といつでも会える」と、その場しのぎを言ったが、美雪は春清に、「小雪に会いたい」と言えば、止められると察したようだ。春清に知られないように会ったつもりだったが、あの人に知られてしまう。あの人は、告げ口をした翔一をその場から追いやり、妙に低い声で延々と春清や小雪を罵った後、
「やはり、金で動く奴は信用できない」
 いつものいいぐさを吐き捨てて、ぷいと席を立った。
 ”あの人”の言動に不安を感じた春清は、泣きすがる美雪を漸くに説得し故郷へ帰したが、気がかりはいつまでも残った。
  春清の「平穏な日々は望めなくなる」は続く。
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素姓乱雑
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