嘘だまり

幻が消えるとき(旅立ち)

幻が消えるとき(旅立ち)

旅立ち 小雪を訪ねて、城端を訪れてから早くも三か月が過ぎた。その間、城端に心を惹かれた翔一は会社に退職届を出し、城端へ移り住む意思を父に伝えた。「城端に移り住むための準備はすでに整っている」 父は即答する。「私もこの家を出て美雪や孫の墓守をするつもりで、移り住む準備を進めていた。母さんも一人だと寂しいだろうから、遺骨を分骨してもらうことにしよう」 期せずして、父子で城端の住人となった。 翔一はその...

働きアリ

働きアリ

先に述べた、5月に亡くなった伯父の生きざまの話しになる。家内にとって伯父にあたる方は、まるで働きアリのような人だった。寸暇も惜しんで、地元の特産物を出荷するため夜なべまでした。それまでして稼いだ金はそんなに多くないだろうに、惜しげもなく、兄弟姉妹やその家族の交誼に使った義人でもある。兄弟姉妹は9人なので何かと大変だったと思う。 下の写真は、9月初めの納骨の日に撮った風景である。     &...

幻が消えるとき(7)

幻が消えるとき(7)

「罪を犯してまで我が子を取り戻したというのに、あの日の出来ごとは、幼い体に随分と負担になったようね」 小雪はやるせなげにため息をつく。「結局は養母ははがあの子を無理やり連れていってしまった。すぐにも、あの子の後を追いかけたかったけれど、母が聞かせてくれた曳山祭りだけはどうしても見たかった。その願いを叶えた今、祭を見られなかったあの子に会って、曳山の話しを聞かせてあげたい」 翔一の感情を支配する脳は...

桐の実

桐の実

月日の過ぎるのは早いものだ。5月に、家内にとっては伯父にあたる方が99歳で亡くなった。つい2~3日前まで杖をつきながらでも、家の周りの草むしりをしていた、気丈な方である。伯父夫婦二人だけの世帯だったが、伯父の兄弟姉妹は亡くなった方を含め9人と大勢だったので、四十九日の法要も終わり、9月の声を聞くようになって納骨を終えても、事後処理やら残された老婦の世話で、家内は頼りにされて何かと忙殺されている。 下の風...

幻が消えるとき(6)

幻が消えるとき(6)

 部屋を出た小雪がすぐに戻った時は、持っている盆の上にビール瓶とコップが乗っていた。「こちらの地ビールだけど」 翔一にコップを持たせるとすでに栓を抜いた瓶を傾け、コップに中身を注いだ。翔一小雪の変わらぬ気配りに感心しながら、中身を半分ほど空ける。いつも飲み慣れているビールに比べると、少し抜けたような気がしないでもない。しかも味が違う。「これも地ビールの特色」だろうかと翔一は思った。 小雪は、翔一が...

幻が消えるとき(5)

幻が消えるとき(5)

 あの子も、風邪が治ったばかり……、幼児の長旅は体への負担が大きいのに……、家へ行っても、あの子がいないのではないだろうか……。 車中、小雪はわが子のことが気がかりで、幾度となく不安にさいなまれた。 小雪は、「もう二度と来ることは無い」と思った家に着き、裏口から敷地に入ると、小雪の姿を見た父が寄って来て囁いた。「今、子供は翔一が世話をしている」 この家に間違いなくわが子がいたと知ってこれまでの不安が一気...