嘘だまり

幻が消えるとき(4)

幻が消えるとき(4)

 翔一が腕に抱いたときは元気な泣き声を上げていたのに、信じられない話だ。「翌日に亡くなった?  いったい何が……」 小雪を責めた訳でもないのに翔一の語調は鋭くなった。小雪は怯えたように体を震わせ、崩れるように座り込んだ。翔一は続けようとした「あったのか……」、という言葉を思わず飲み込んだ。小雪の住まいへ寄ったとき、住まいや衣服から線香の香りがした訳を、翔一は今になって知った。 小雪は、張り詰めたその日...

幻が消えるとき(3)

幻が消えるとき(3)

「こころもとない父と違って、翔一さんとは長い年月、姉と弟として支えあってきた。私を困らせた告げ口も、あなたが頑是ない頃のこと、翔一さんに責任はないわ。そのあなたを、単なる同居人として記憶の隅に留めるだけでは、私の中の長い年月を空白にしてしまうと思った」 姉と弟の距離を測りかねた小雪の心を表すように、呼び方が「翔一さん」と「あなた」を行き来する。「家を出る前の日、あなたを困らせ、突き放そうと思ってい...

幻が消えるとき(2)

幻が消えるとき(2)

「あなたから離れたいと思ったことが何度もある」 翔一は、ひんやりとする風に首筋を撫でられた気がして身震いした。「だから会いたくなかった?……」 小雪は「そうだ」とも、「違う」とも言わない。思いもしない胸の内を明かされて、翔一は悄然となった。「そのあなたに、私と母が会ったことを養母に告げ口されてからというもの、養母の干渉は異常なくらいに激しくなった。その時から私と母は地獄に突き落とされたようなもの。告...

幻が消えるとき(1)

幻が消えるとき(1)

 姉弟が泊る宿は小高い山の中腹にあった。着いた時間が遅いので「お客様、すぐにお食事になさいませ」 宿の勧めに応じて早々に食事となった。食事が済んで、「姉さん、風呂に入ってくる」「それがいいわ、私も片づけが終わったらすぐに行くから」  翔一は宿の浴衣に着替えて風呂へ出かけた。 翔一が風呂から戻った時、食事の後片づけは済み、隣の部屋に夜具が二組、並べて敷いてある。五月の夜、外はまだ寒いが部屋の中は暖か...

瑞泉寺門前八日町通り

瑞泉寺門前八日町通り

三回にわたり「井波瑞泉寺 」「井波瑞泉寺山門 」「山門の飾り彫刻・八仙 」などを見てきたが、今回は寺域を離れ門前の様子を見ることにした。 門前の八日町通りから瑞泉寺を望む 背後に山を擁し、前面に石垣を附して要害の地とした瑞泉寺の権勢が知れよう。また石垣の高さに加えて、町通りと山門入口をずらすことにより、瑞泉寺の威容を直接に見えなくしている。実際に訪れてみれば分かると思うが、石垣を越え、寺域に入って初...

山門の飾り彫刻・八仙

山門の飾り彫刻・八仙

瑞泉寺山門の中で由緒書きに述べてある「中国民間伝承に登場する八人の仙人(八仙)が彫られた蟇股(蟇股前面の飾り彫刻)」を見る。 八仙は道教の仙人のなかでも代表的な存在であり、中華社会のいかなる階層の人にも受け入れられて信仰は厚い。ただ、日本での八仙といえば中国のものと違い、物語性を重視した人物、及び、内容へと変化している。日本における七福神のように *   蟇股(かえるまた) 上部の梁の荷重を...