嘘だまり

NO IMAGE

かいこ(25)

兄・翔一の「翔梧!」 と呼ぶ声で、翔梧は過去にいたのだと改めて気付かされた。  人喰い谷であの男北さんに出会ってからというもの、口うるさかった翔一の苦言は滅多に聞かれなくなり、時には考え込むことの多くなった翔一だったが、今朝は珍しく明るい声で翔梧を呼んだ。 「何だい兄さん」  翔梧は聞こえてきた家の外に向かって応じながら、今日は寒いと思って窓の外を見れば雪の花が舞っている。玄関から外に出た翔梧の姿...

0
ピラカンサスの実

ピラカンサスの実

ピラカンサスの木が雪を冠っていますRanzou /2016   赤い実は印象的ですが、有毒成分を含むので小鳥は見向きもしないRanzou /2016  ...

日本酒のあれこれ

日本酒のあれこれ

「ずいぶんと冷え込むようになってきたね」「この寒さになると……」「熱燗でキュッと一杯、と言いたいんだろう、のん兵衛さん」「ただ飲んだくれているだけじゃないよ。これでも日本酒をこよなく愛し、味わいながら飲んでいるんだ」「とか何とか、うまいことを言って」「だったら日本酒のあれこれを話すから。まずは日本酒のできるまでだ」 日本酒のできるまで行程おおまかな作業内容精米雑味の元となるコメの外側部分をこそぎ落と...

かいこ(24)

かいこ(24)

翔梧を十三年前という過去へ引きずり込んだ、「あの男」の姿が浮かんだ。 北さんから戻った「あの男」は翔一・翔梧の兄弟に告げた。 「蚕の魂は翌年、九年目の繭を破り人魂を宿して九界へ戻る」  もはや先ほどのような朴訥さは見られず、独特の訛も今は失せ、北さんとはほど遠い雰囲気だ。 「会った最初に言った、話しておきたい内容というのは、蚕が九界に戻った後のことについてなんだ」  遠くから切れぎれに聞こえる車の...

0
NO IMAGE

かいこ(23)

淡々と翔一は、「残った一頭が両親の様子を教えてくれたがですね。話しの内容を疑ったりして失礼なことを言うてしもたちゃ、堪忍して下さい」 全てに納得できたという様子を見せた。 一方、北さんの話しがいまだに信じられない翔梧は、「蚕が話す? そんな馬鹿な!」と、疑念を拭えない。受け取り方の違いが兄弟のその後を分ける。 全てに納得の翔一が聞いた。「それで、繭になった一頭のその後は?」「今も繭の中で眠っている...

0
NO IMAGE

かいこ(22)

- 第四章 - 体を担ぐ者、両脇から補佐する者、それらを取り巻く騒乱からそっと離れた北さんは大破した車に近づいた。 「俺が捜索員に加わった本来の目的は渡した三頭の蚕の行方を知ること。そやから(そうだから)他の二頭を探そうと思ったがや」  翔梧は北さんに変化を見た気がする。  ふと、人喰い谷の底で蚕がガサゴソと動く気配が湧いたように思えた。翔梧は、蚕が這い上って今にも顔を覗かせるのではないかと怯えて谷を...