嘘だまり

かいこ(11)

かいこ(11)

城端から五箇山の平村(現、富山県南砺市平村)までは、1970年(昭和45年)に国道となる304号線を使う。この道路は1973年(昭和48年)にアスファルト舗装になっても依然として曲がりくねって狭く、前方から車が来てもすれ違いのできない所が何か所か残った。酷こく道どうからの脱却は1984年の五箇山トンネル開通まで待たねばならない。 だが国道に昇格する前の、この事故が起きた頃はもっと深刻だった。中でも、城...

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かいこ(12)

人喰い谷を通る時は誰もが慎重な運転をするので、今まで重大事故は起きていない。それが今回、「2名の乗った車が谷に転落」、という最悪の事故発生で地元は大変な騒ぎになった。すぐに救助隊が編成され、慌ただしく次々と現場に向かうサイレンの音が広くはない町を揺るがした。  救出に駆り出された人達は現場に到着すると次々に命綱を頼りに急峻な崖を下りた。時折、濃いモヤが薄らげば、黄泉の国へ誘うように深い谷底が顔を覗...

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かいこ(19)

北さんは、「お父さんとお母さんは失意のまま帰路についた」と話しを接ぐ。 「日中でさえも薄暗い森の中の道を、さ迷ったと思うほど中間地点の細尾峠に着くまでの道のりは長く、待ち望んだ城端の村落が山の間から見えるようになっても、どんよりとした疲れが体の奥底に沈んだままで消えることがなかったがや」  翔梧の頭の中に、どうしょうもなく後悔に苛さいなまれる父の姿が浮かんだ。  北さんの話しは間違っていないだろう...

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かいこ(20)

向かい側の急峻な山肌に折り返した道が見えて、お父さんは道が鋭角に折れ曲がった難所が近いと知る。 「ねぇお父さん、小箱に入った子がさっそく糸を吐いてる」  蚕の入った箱を持ち上げ、置いた小箱の中を覗いていたお母さんが明るい声を上げた。  「小箱をちぎって三つに分ければよかったかな、そうすれば……」  嬉しくなったお父さんが車の前方から目をそらしてお母さんを見たわずかの隙を突いて、轍を踏んだ車が大きく弾...

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かいこ(21)

疑問を発した翔一に、北さんは悠然ゆうぜんと答えた。 「いや、事故が起きるまでをつぶさに知るものはいたがや」 「誰なんです、その人は」  翔梧は勢い込んで聞いた。 「人と言うよりも一頭と言った方がいいだろう」 「まさか……、蚕が?」  翔一と翔梧は口をそろえて北さんを見た。 「何も驚くことは無い、我が子のような蚕が付き添っていたがやから、全てを知るのは当然やちゃ」  翔梧の背筋に冷たいものが走り、この...

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かいこ(22)

- 第四章 - 体を担ぐ者、両脇から補佐する者、それらを取り巻く騒乱からそっと離れた北さんは大破した車に近づいた。 「俺が捜索員に加わった本来の目的は渡した三頭の蚕の行方を知ること。そやから(そうだから)他の二頭を探そうと思ったがや」  翔梧は北さんに変化を見た気がする。  ふと、人喰い谷の底で蚕がガサゴソと動く気配が湧いたように思えた。翔梧は、蚕が這い上って今にも顔を覗かせるのではないかと怯えて谷を...

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かいこ(23)

淡々と翔一は、「残った一頭が両親の様子を教えてくれたがですね。話しの内容を疑ったりして失礼なことを言うてしもたちゃ、堪忍して下さい」 全てに納得できたという様子を見せた。 一方、北さんの話しがいまだに信じられない翔梧は、「蚕が話す? そんな馬鹿な!」と、疑念を拭えない。受け取り方の違いが兄弟のその後を分ける。 全てに納得の翔一が聞いた。「それで、繭になった一頭のその後は?」「今も繭の中で眠っている...

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かいこ(25)

兄・翔一の「翔梧!」 と呼ぶ声で、翔梧は過去にいたのだと改めて気付かされた。  人喰い谷であの男北さんに出会ってからというもの、口うるさかった翔一の苦言は滅多に聞かれなくなり、時には考え込むことの多くなった翔一だったが、今朝は珍しく明るい声で翔梧を呼んだ。 「何だい兄さん」  翔梧は聞こえてきた家の外に向かって応じながら、今日は寒いと思って窓の外を見れば雪の花が舞っている。玄関から外に出た翔梧の姿...

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かいこ(27)

「兄さん!」 すべては瞬時のことだ。  人喰い谷で翔梧が気にした時と同じような、ガサゴソ動き回る蚕の気配が濃厚になった。 「安心しろ翔梧、いま俺が食ったのはお前の頭の中に残った翔一にまつわる記憶だ」 「お前は!」  翔梧の目前で像を結んだ男は蚕の一部を覗かせていた。 「そう、俺は人喰い谷で北さんが捜しても、最後まで見つからなかったという蚕。お前の父が、翔一とお前の、兄弟の間に存在を含めた三頭の内の...

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晩秋の五箇山路(五箇山トンネル城端側)

晩秋の五箇山路(五箇山トンネル城端側)

立冬を迎える前に11月3日、秋の五箇山路を散策してきました。 紅葉は終わりに近く、落葉が始まって冬の訪れが間近いことを感じさせます。 まずは、五箇山トンネル城端側の紅葉Sosei Ranzou   かっては細尾峠に向かう旧国道が右側に通っていたSosei Ranzou   正面に見える山を回り込んだ向こう側が通称「人喰い谷」Sosei Ranzou   人喰い谷 国道304号線にまだ五箇山トンネルがなかった頃、冬場に郵便物を届...

晩秋の五箇山路(旧道を歩く)

晩秋の五箇山路(旧道を歩く)

旧道の五箇山路そのなかでも安定した車道が残っている、梨谷大橋-細尾峠間。 その旧道を11/3日に、途中まで散策してみた。 いつもは静かな風が通るだけの道を行き交う車がちらほらと見える。 いまはすすき野になっているが、山間では貴重な水田があったSosei Ranzou   民が汗を流した地は荒れ果て、いまはすすきが風に揺れるだけSosei Ranzou   この地を耕した民人は、いまいずこにSosei Ranzou   いまは風...