嘘だまり

蓮の花(1)

蓮の花(1)

その日、今にも泣きだしそうな空の下を散策していた私は、近くに不忍池が有ると知り、訪れてみる気になった。池畔に立つ私に見えてきたのは池一面を覆う蓮の葉。その間に開いた清らかな花を見ていると、心が洗われるような気がする。不忍池の花はやはりご縁があったようだ、来てよかった。私は蓮の花に向かって心の中で手を合わせながら、昨日一日の出来事を思い浮かべた。...

蓮の花(2)

蓮の花(2)

兄はヒゲをそることがなかったのだろうか。いや、身ぎれいな兄だったからそのようなことはないはずだ。だとすれば、倒れてからもヒゲが伸びるほどの時間、動けないまま生きていたのだろうか。あるいは、亡くなってもヒゲだけは生きて伸び続けたのか。私が考え込んだのを見て戸惑った署員は、気分が悪くなったと思ったのか写真を取り上げた。「どうでしたか?」 署員は写真の人物が兄かどうかを聞く。「音信不通になってから十年ほ...

蓮の花(3)

蓮の花(3)

思い浮かべていた昨日の出来事から戻つて視線を転じれば、蓮の花の向こうに弁天堂が見える。今日は曇っている分だけ蒸し暑い。このあと私は不忍池を離れて、予定通りに兄が住んでいたマンションを訪ねて冥福を祈るつもりでいた。署で保管しているマンションのカギは受けとらなかったが管理人とは話が通じたので、訪ねれば部屋は無理としても、マンションの中に入れてもらえることになっている。もし管理人と会えなくても、兄が住ん...

蓮の花(4)

蓮の花(4)

その妄想とは…… マンションの販売管理会社の担当者が販売成績を上げるため標的を中年男性で田舎出身の独身者に絞った。田舎者は、ま・じ・め・ にく・そ・が付くくらいだから従順で言いなりだ。払いきれなくてもローンを組ませる。ローンの保証は生命保険。そこで担当者は、「都会で一旗上げる」と飲み屋で熱く語っていたY雄に目を付ける。「朗報です。ある物産会社の社長が会社の販路を広げるため、やる気のある人を探していま...

蓮の花(5)

蓮の花(5)

Y雄が病んで引き籠りとなりローンの支払いが滞ったと知るや、すぐに駆けつけた担当者はY雄に向かって冷たく言い放った。 「不始末で残ったローンはあなたの生命保険で払ってもらいます」 「そんな……」 担当者は、Y雄が誰とも音信不通でいるのを探りあてている。 「あなたがこの世から消えても、すぐには誰も気付かない」担当者の顔に冷酷な笑みが浮かんだ。 ――最初からを払いきれないのを分かっていて組んだローンだ、この...

男たちが綴る曳山史

男たちが綴る曳山史

身命を賭して祭りを守った男たち今回「城端曳山史(以下曳山史と略す)」を紐解き、曳山をめぐる騒動に触れてみる。 城端駅から街中に向かう国道304号線が、大きく弧を描ききる手前に地蔵堂が有る。祀られているのは延命地蔵といい、地蔵堂の横に謂れが記してある。(下記写真)事件の発端、経過、結果を「曳山史」は各市史などを引用して詳しく述べているが、ここでは要約した内容とする。御車山の創始が慶長15年(1610)...

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